「……ダメだよ、そんなの」


いつも注文しているケーキセットの値段を、私はちゃんと覚えている。

財布からお札を取り出そうとすると、逆に聡が一枚の紙幣を差し出した。


それは、フィレンツェに行ったときに何度も目にしていたユーロ紙幣。

紙幣には、黒のペンで連絡先のようなものが書いている。


「なに、これ。電話番号?」


手に取ろうとすると、聡は紙幣をスッとほんの少しだけ高く掲げ、私の手の届かない位置へと持っていく。


「俺の連絡先。おごらせてくれたら、お礼にこのユーロ紙幣をあげるよ」