「依子と一緒に階段上ってくれた人よ」 「……あぁ……。本当にあれっきりよ」 興味なさげに取り繕うのが精一杯だった。 聡のことを思い出すたびに、会いたくなる。 ――誠司がいるのに。 たった一度会っただけの人なのに。 どうしてこんなにも、私は聡のことばかりを思い出すのだろう。 「――失礼いたします」 会話の途中、カフェの店員が丁重な姿勢でテーブルにやって来た。 オーダーしたものはすべて揃い、伝票もテーブルに置いている。