ベランダから部屋に戻ると、私は何をするでもなく、ソファに座り、ただぼんやりとしていた。


静かな空間。時計の秒針の音だけが大きく響きわたる。

その静寂を突き破ったのは、一本の電話だった。

電話の相手は香織。

私と同じように暇を持て余していて、お茶でもしないかという誘いだった。


仲間うちで、香織とはいちばん気が合う。

それなのに私は、香織に対して、誠司と将来を誓い合った仲だということを話していなかった。


もうそろそろ、話してもいい時期なのかもしれない。

フィレンツェでの卒業旅行を終えたら話そう。


そう決心していたのに、私の口は再び、固く閉じられてしまった。