私は、いつものように、部屋のベランダに出る。
大学入学と同時に始めた一人暮らしは、快適だ。
誰にも邪魔されず、考えごとや思い出にゆっくりと浸ることができる。
誠司に対して罪悪感を抱きながら、視界いっぱいに広がる見慣れた景色にフィレンツェの町並みを重ねた。
――もう一度、聡に会いたい。
もしも会えたとして、聡は私のことを覚えているだろうか。
「どこかで見たことある」と思う程度でいいから。
名前なんか覚えていなくてもいいから。
ドゥオーモの頂上まで、初対面の日本人と一緒に階段を上ったということだけは、どうか覚えていてほしい。


