三月という季節は、心なしか不安定になる。

大学卒業を控え、社会に飛び出そうとしているこの時期は特に。


卒論も提出した。就職も早いうちに決まった。

人は生真面目な性格だと言うけれど、ただ単に、面倒なことを後回しにしたくなかっただけ。


異国の地で、同じ街に住む聡と出会い、そこから何か関係が始まるのではないか。

フィレンツェから帰国したあと、香織たちは顔を緩ませながら何度となく私に突っ込んできた。

「ありえない」と、笑いながらも、ほんの少しだけ淡い期待を抱いていたのは事実。



けれど……――。

その時すでに、私には将来を約束した相手がいた。