「で、なにもなし?」 旅先での出会いというシチュエーションに、なにかを期待するかのような顔で香織は訊いてきた。 「なにもなし! 当たり前でしょ?」 私は呆れた口調で返すと、理恵子たちのもとへと足早に向かった。 異国の地での、偶然の出会い。 なにも期待なんかしていない、と言えば嘘になる。 香織に対して呆れた態度を取ったものの、ほんの少しだけ期待していたことは確かだ。 連絡先を交換したり。 帰国してから会う約束をしたり。