「はい、止まらない、止まらない」


彼はそんな私の背中を優しく上に押し上げる。


「S県のどこ?」


今度は私が訊くと、彼は変わらず明るい口調で「T市」と答えた。


こんな偶然、あるものなんだ。

日本から遠く離れた異国の地で、同じ町に住む人間と出会うなんて。


「私もT市!」


足取りは重いままだったけれど、さっきまでの疲労感が吹き飛ぶ。

私は自分の口調が、次第に明るくなっていくのを感じた。