「……彼は、騙すつもりだったおまえのことを、本当に好きになってしまったんだよ」


書面に記された『伊佐 聡』という名前を見て、涙がじわりとこみ上げてくる。


「お袋に、おまえとの結婚も考えていることを打ち明けて、彼は自由を求めた。でも、お袋がそれを許さなかった。自分のもとから去るのなら、依子にすべてを暴露する、と」


逃げ場を失った聡は、社長の口から真実を話されるよりは、自分から話した方がいい。

そう決めて、あの日、冷酷な言葉で私に真実を話した。

でも、ひとつだけ、聡は真実を隠した。

それは私への思い……――。


「依子への思いを募らせながら、おまえを傷つけた大元のお袋のそばにいることは、彼にとって生き地獄でもあったんだよ」

「……そんな……」

「……相当思いつめていたんだろうな。うちの会社に来たとき、彼はナイフを持っていたらしい。自由になりたくて、全てから解放されたくて……」