ミラノにしよう、と決めてからの流れはとても早かったと思う。

新婚旅行も兼ねていたから、打ち合わせのため、旅行会社に何度も足を運んだ。


社長は私たちの結婚が本格的に動き始めたことを誠司から聞いたらしく、「おめでとう」と祝福の言葉をかけてくれた。

それは、誠司の母親としての言葉じゃなく、部下への言葉だった。


誠司は会社を辞めたあと、社長と、親子としての距離を置いた。

その距離がもとに戻るまでには時間がかかる、と、社長に言ったらしく、社長は「気長に待つわ」と苦笑したらしい。



――季節は秋。

結婚が間近に迫っているのに、どこか寂しさを感じる。

意味もなく胸を締めつけられ、心だけが身体を離れていく。