「――結婚の話を、また進めていこう」
「……誠司……」
「俺はあいつとは違う。金も地位も、何もいらない。ただ、依子が隣にいるだけでいいから」
穏やかに笑う誠司に、私は、首を縦にも横にも振ることができなかった。
誠司は私の傷を癒すかのように、毎日私との時間を作るようになり、結婚の話をする。
私は曖昧な返事をしながら、あることを思う。
社長が聡を私に仕向けたのは、何のためだったのか。
――それは、誠司と私を引き離すため。
引き離すことに成功したはずなのに、皮肉にも、それをきっかけにして、私と誠司は以前のように肩を並べる。
社長がそのことを知れば、また、新たなる刺客が差し向けられるんじゃないか。
そんな不安に怯えていた矢先、誠司が突拍子もない行動を起こした。