その鳥が燕であり、そして私のそばにいた聡であることを、副社長はその時すでに知っていたのだ。
「……依子。燕はお袋側の人間だけど、俺と副社長はそうじゃない。……副社長もおまえのことを心配していたよ」
私は誠司の気持ちを傷つけたのに……。
それなのに彼は、私を恨むこともせず、優しく言葉をかける。
「まだ、あいつのことを想っているのか?」
私は言葉を発さず、無言で首を横に振った。
もしもここで頷いたら、私の気持ちはずっと置き去りにされたままだ。
自分の気持ちに正直にいるべきだとは思う。
けれど、正直になったところで、裏切られ、そして失ったものは、もう二度と戻って来ない。
どんなに願っても、聡は社長の鳥篭の中に存在し続け、自ら扉を開けて自由に空を舞うことはない。
飼い主の餌が、必要だから。それを無くしては生きていけない、燕だから。