聡と別れた秋が終わり、冬がやって来て、そして再びやって来る春……。

初春は、聡と出会ったフィレンツェの町を知らずのうちに思い出させる。


――バカみたい。

社長の指示とはいえ、ドゥオーモの半端じゃない数の階段を上るなんて。

『死にそうなくらい辛かったよ』

そう悔いるくらいなら、最初から違うところで出会うように計画すればよかったのに。


私に何度も食事を作ってくれたけど、そんな面倒なことして何の意味があったんだろう。

優しい男を演じたつもり?

いまどき、料理のできる男なんて山のようにいる。


聡を嫌いになってしまえば、きっと、すべてを忘れられる。

そう思って、聡との思い出を一つずつ巡らせながら「あんな男」と悪態をつくけれど……。

同時に、痛すぎるくらいに思い知らされる。


――まだ、私は聡を好きなんだ。

聡と過ごした日々すべてを、正確に思い出せるくらいに……。