カフェにたどり着くまでの間、私は何度も、道行く人とぶつかる。
そのたびに感情のこもっていない声で「すみません」と謝り、最後にぶつかった人に頭を下げた瞬間、涙が頬をつたった。
社長は、私と聡のことを『何もかもお見通し』といった様子だった。
しかも、これから迎えるはずだった私たちの幸せを、大切な燕の火遊びのように表現した。
――聡……。
フィレンツェで出会い、日本で再会したことは、偶然ではなかった?
毎日のように私に囁いた聡の気持ちも、すべて嘘だった?
「……こんにちは。お久しぶりですね」
不意に声をかけられ、振り返る。
私が立ち止まった場所は、聡と再会した、行きつけのカフェだった。
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