それを分かっていて、副社長は私を「依子ちゃん」と呼んだのだろう。
けれど私は、「依子ちゃん」と呼ぶ彼には申し訳なかったが、「副社長」と呼ぶことを貫き通した。
「社長はまだ会議から戻っていないの?」
「戻りは午後だと伺っていますが……」
「そうか。戻ってきたら私に連絡してくれるかな」
「はい、分かりました」
私が一礼すると、副社長は思い出したように口を開いた。
「そういえば……、社長とはどう? うまくいってる?」
「うまくも何も……。そう滅多に顔を合わせることがないので」
私が苦笑すると、副社長は心配そうな表情を浮かべる。


