「ねぇ、桜は何とも思わないの?」 理恵子とのやり取りのあいだじゅう、ずっと黙って話を聞いていた桜に話を振ってみる。 おとなしい性格の桜は、にこりと笑って、 「貴重な体験でしょ? 大変そうだけど、頑張って上ってみるよ」 まるで私と香織を励ますように、そう言った。 クーポラの頂上に向かう階段は薄暗く、予想以上に狭かった。 往復兼用になっているから、すでにフィレンツェの町並みを堪能して降りてきた人とすれ違うたびに、壁に身を寄せて譲り合う。