「……依子ちゃん」

「あ……、副社長……」


午前中の勤務を終え社員食堂に向かう準備をしていると、社長室に副社長がやって来た。

副社長は社長の弟で、私の幼い頃を知っている人でもあった。

常に緊張感を保っている社長とは違って、温厚な人柄がその顔に表れている。


「これからお昼?」

「はい。副社長は?」

「ははっ、依子ちゃんに副社長なんて呼ばれると、妙な気分だな」


この会社に入るまで、私は副社長のことを「おじさん」と呼んでいた。

今だってそう呼びたいけれど、ここは会社。

同じ社長室に籍を置く同僚や先輩たちはすでに社員食堂に行ったあとで、この場所には私と副社長しかいない。