彼女は、事実を伝えると私たちが行かないと言い張ることを予測して、ギリギリまで黙っていたのだ。

しかし、香織の「エレベーター」という言葉を聞いて、私の憂鬱な気持ちは一気に吹き飛ぶ。


「そうだよね。これだけの階段があるんだから、エレベーターがあるに決まってるよ!」


トリッパを食べ終えた私は、さっきとは違う明るい口調で言う。


「……あのねぇ。エレベーターがあるのは、ミラノのドゥオーモ! フィレンツェのドゥオーモにはエレベーターはないの! 階段のみ!」


呆れたように言う理恵子の前で、私と香織はがっくりと肩を落とした。


全員が食事を終えたのを確認すると、理恵子は嬉々とした様子で立ち上がる。

私と香織は、うなだれるようにして後に続いた。