「今から行ってもいい?」
『……依子?』
きっと私の声は尋常じゃなかったんだろう。
それは自分でも分かっていた。
『気をつけておいで。待っているから』
穏やかなその声が、私の胸をじわじわと締めつける。
社長室に異動になったことは、同僚が言うように喜ぶべきことだろう。
でも、どうして?
煩わしいと思っていたはずの私を、社長室の秘書に?
誠司と別れて月島家とは何の関わりもなくなったから?
そこに私情はない、と、信じたかったけれど、何のスキルも持っていない私を社長室の秘書にというのは、あまりにもおかしい。


