「……思いつくことといえば、秘書検定とTOEICぐらいしか……」 持ってもいない資格を適当に口にし、私は苦笑した。 異動が決まったその日。 私は会社を出てすぐ、聡に電話をした。 『依子?』 もうすぐ本格的な夏を迎えようとしている夕方の空は、まだ明るい。 生暖かい、蒸し暑い空気が私の身体に纏わりつく。 「……聡。今日、会える?」 『大丈夫だよ。今日は月曜日だろ?』 月曜と木曜は聡の公休日。 その週に二日の貴重な休みを、聡は私と過ごしてくれるために必ず空けてくれている。