「そうだよね。やっぱりまだ、早いよね」


合鍵のことを思いつめたように話した私を、誠司は笑ってやり過ごす。


「焦りすぎだよ。もう少し互いのことを知り尽くしてからだと思うけど?」

「……うん」


ふと誠司のときのことを思いだす。

誠司とは幼い頃から気心の知れた仲だったから、大学進学を機に一人暮らしを始めた彼から合鍵を受け取ったのは、私がまだ高校生のときだった。


聡は、違うんだ。

幾つもの夜を迎えても、どれだけ深く肌を重ねあっても、私と聡は互いを知り尽くしてはいない。


私は自分のことを、家族構成から友人関係に至るまですべてを話していたけれど、聡は違う。

訊けば、答えてくれる。でも自分からは決して話さない。