桜の彼氏。 確か、高校の時から付き合っていると聞いている。 フィレンツェに行った時も、自分の買い物よりも彼氏へのお土産を熱心に選んでいた桜の姿が印象的だった。 「いいなぁー、桜ってば」 彼氏のもとに小走りで向かっていく桜を見て、理恵子は呂律の回らない口調で呟く。 「さっ、帰ろう、帰ろう」 恨めしげに桜をじっと見つめている理恵子を、香織は無理やり反対の方向へと連れ出した。 「――依子!」 彼氏の車に乗り込んだ桜と手を振り合った直後、聞き慣れた低い声が私を呼ぶ。