2LDKのお姫様

取り残された2人はというと。


「か、かか解剖……」


「い、いくら何でも解剖は……」


「いや、シオリの解剖学の成績………学年トップだった」


凍り付く2人。


シオリの解剖学の成績は折り紙付きなのだ。


「ま、まあでも、まさか、いくらシオリでもそこまではしないよ」


「そ、そうですよね。解剖なんてどこででも出来る事じゃ無いですしね」


そう自分に言い聞かせることで、胸を撫で下ろす事した出来なかった。


そんな頃、あんな事を言いながらも、シオリは奥でリンゴをむいてあげていた。


全く、しょうがない人たちだと改めて実感しながらも、丁寧かつ正確な包丁さばきは、確かにその成績を裏付けれる。だが、あのセクハラの件は……


『痛っ』


どうやら少し、こたえているらしい。


親指が切れてしまった。鞄に入れていたハンカチをとって医務室に絆創膏を貰い行こうと急いで2人の方へ戻ると、胸を撫で下ろした瞬間に鉢合わせる。


「し、シオリ、早まらないで」


『は……』


彼女はポカンとしている。またホノカがふざけているのだと思ったが……


「シオリさん、ま、まだ破ってないです。は、は、は、早まらないでください」


大まで恐れ慌てふためいて後ずさりするので、可笑しいと思ってはいるが、気付かない。実はシオリ、血の付いた果物ナイフを置き忘れて右手に持って来てしまったのだ。


流石に2人も慌てるはずだ。


シオリはまだ気付かない。


「な、何する気よ」


『いや、ちょっと医務室にいくだけよ』


「な、なんでよ」


『だって、血がでちゃうから』


「こ、こんな所で、無理ですよ。さ、早く帰りましょ」


まるでコントだ。


『何言ってるの、ここは病院よ』


そう言いながらシオリはニコっとまたあの満面の笑顔を見せた。




あの日見た笑顔と、血の付いたナイフを、僕は未だ忘れられない。


大はあの禁酒解禁後でも、それをしゅいろに言い続けたらしい。シオリの絶対権力はより増大し、もうホノカも簡単には煽れなくなった。シオリ閻魔政権発起。


その巨大な権力の統治下で、2人はまるで親指姫のように、ひそひそと暮らす日々が続いた。


あの日切れた親指は、もう今は傷痕1つ見当たらない。


姫の手に傷を負わせた代償は、高くついたわけだ。