2LDKのお姫様

連休明けの市内は、いつものようにせわしなく人が蠢いている。


おかしなモノだ。連休中は見知らぬ老人や中高生で溢れていた帰り道が今日はもとに戻っている。


大学に入ってから、もう何回目にもなる事なのだが、未だ慣れない。


ただ1つだけ違うこと……


『ちょっと、変な物は買わなくて良いからね』


それは彼女が戻ってきて、今横にいることだ。


「いや、この人形可愛いですよ。ちょっとシオリさんに似てないですか」


いつもの帰り道にあるスーパーの二階で2人は新しい食器を探していた。


しゅいろの卒業が近いため、大学入学前に何か新しい物を揃えようと考えたのだ。


よくよく考えれば2人で買い物なんて久しぶりの事だ。そんな純粋なデートをホノカは最近密かに羨ましく思っているらしい。


どうやらこの2人とは裏腹に彼女の恋は上手くいってないようだ。


『はあ、じゃあホノカに買ってあげるわ』


「それは名案かもですね」


どうせこのまま帰っても、シオリにしても彼にしてもホノカから、ネチネチと小言を囁かれるだけだ。


それに比べれば、この800円も安くない。


それに、シオリに似た人形なら尚更だろう。


『あと、私には似てないから』


どうやら認めたくないらしい。


「まあ、シオリさんの方がもう少し可愛いですね」


『馬鹿』


そう言いながらシオリは大に内緒で人形を2つ買った。


会計を済ませ2人は果物売り場へと向かう。


シオリの両手は塞がれていて、手を繋ぐことは出来ない。


『沢山買うから、荷物運び頼むわね』


「えっ、俺も両手塞がってますって」


まあ何と言おうと、シオリの頼みは断れないのがお約束だ。


断っても不気味な笑顔だけが返ってくるだけだ。


すいすいと進んでいく彼女の後ろをトボトボと着いていく頼りない彼の左手にも、内緒の人形が入った紙袋が1つ、携えられていた。