2LDKのお姫様

夕方の街並みは少し寂しい感じがする。黒ずみ始めるオレンジ色の山際が、どこか恐ろしく、美しい。


午前中から観光に出ていたシオリは長い事、見慣れない街並みをゆっくりと楽しんでいた。


とは言え、偶然お祭りが開催されていたため、観光というよりも食べ歩きに近いものだった。


だが、帰っても味気ない時間を寂しく独り過ごすだけ。ならば美味しい郷土料理でお腹を満たし、今日は早く寝ようと考えたのだ。


騒がしい祭とは違って、地方のお祭りは実に感慨深い味わいと温かさがある。人も疎らで、シオリにはかえって苦労しない。


しかし、思ったよりも遅くなってしまった。今朝も早くに起きたため、久しぶりに長く睡眠をとろうと考えていたが。それに、食べ過ぎた。


肌が最近荒れてきている。20代とは言っても、もうすぐ折り返し。彼の事が脳裏によぎる。


肌の事なんて、どんなに小さな悩みか。そんな風な事を彼も前に言っていた気がする。


バス停に付いて、ダイヤの少なさに焦る。次のバスが来るまで30分。


焦るくらいなら待つ必要は無い。彼ならそう言って30分先のバス停まで、ゆっくりと、この素晴らしい街並みを歩くだろう。


お金も節約できるし、ね、とも付け加えるだろうが。


シオリにすれば、それこそ小さな悩みなのだろう。


だが、それも同じことだ。小さな悩みは尽きないし、価値観の相違も尽きない。


だが1つ彼に賛同できること、それは焦る必要は無いのは確かであるということ。


結局シオリは次のバス停では無く、時間の柔軟な電車で帰路へ向かった。


全く、彼女も頑固者である。