2LDKのお姫様

誰もいないリビングに、偶然旅行に来ていた彼が訪ねて来てくれて、テーブルに並べられた美味しそうな料理と、いつもは買わない珍しいお酒を並べて、いつもより華やかな、そんなことを考える。寂しくなる心配は今は置いておく。


『眠そうね』


長旅で疲れていたはずだ。


『ごほん、全然大丈夫ですよ』


『最近忙しそうだけど、ちゃんと寝てるの』


『うん。ある程度は』


そんな寸劇調の独り言を言いながら、大きくため息を1つした。


『……はあ』


馬鹿らしい。シオリはなかなか本心を口に出来ない人間だ。本当は独りにはして欲しくはない。


眠ってしまえば、その分寂しい思考は減る。誰かが寄り添ってくれれば、確かに寂しさは紛れるのだろうが、少し悲しい。


まあ、ずっと起きていられて、何か、彼のような懲りない減らず口を言われるのも、あまり快くは無いが。独りでいるよりはマシだ。


『シオリさん、今日は化粧してないね』


こんな感じだろうか。


『……ふ』


思わず笑ってしまった。


まあ、帰省中なのだから化粧はしていない。そんな理由を考える思考くらいは出来るほどの元気はある。


閉じこもっていたのが悪かったのかも知れない。それに未だ午前中だ。せっかく久しぶりに帰省したのだ。


いつもの都会では味わえない、長閑さを浴びに行くのも悪くない。


シオリは少し化粧をして、出掛ける準備をする。ケータイに目をやると、やはり連絡は無い。充電も切れそうだ。


せっかくの田舎だ。彼女はキッチンのテーブルにケータイを置いて家を出た。