2LDKのお姫様

昼過ぎの街並みは、やけに人が少なかった。流石に駅前となれば、また嫌なあの人混みに重たい荷物が邪魔になるのに気苦労するだろうと思っていたが。


取り越し苦労、いや肩すかしだ。


家までバスで一時間。今日は長旅になりそうだ。


『ん……』


新幹線の中で携帯の電源を切っていたせいか、メールが10件一気に届いた。


ほとんどがホノカか、しゅいろの謎の伝言だ。お土産の話ばかり。


ただ彼からもお土産のメールが届いていた。珍しいことだ。いつもなら「お土産はいらない、可愛い君が無事に帰ってくれるだけで」とクールに利口ぶるのだが。


まあ結局、彼の為にお土産は買っていくつもりだったのだ。ただ催促されると、何か、また肩すかし。


「お姉さん、乗らんのかい」


バスの運転手が叫んだ。どうやら大分彼女は彼の事になると周りが見えなくなるらしい。


『あっ、乗ります』


バス停で呆けていては、また気付かないうちに旅館の待遇を受けてしまう。


ただまずは、ちゃんと降り忘れないようにしなくてはならない。


だが、それほど思われている彼はというと、まだすやすやと布団の中にくるまっていた。


どうやら目覚まし時計をセットし忘れたようだ。