2LDKのお姫様

「そういや、紺野が言ってたんだが、高校一緒だったらしいな」


そう、紺野ツグミと香坂瑠璃は同じ高校出身なのだ。


「え……」


と彼女の顔色が変わる。


「紺野に聞いたぜ……、寄ってくる男をハエのように追い払ってたらしいな」


実はそのコトは高校時代の彼女の恥ずかしい思い出なのだ。


「えぇ、おかげで男友達は1人しか出来なかった」


いや、だからこんな話はどうでも良い。


「悪かった香坂。帰るよ」


そう言って大はカウンターに小銭を置いて店から出ていった。


その後ろ姿はまだ晴れていない。


「まいど……」





帰りたいが、帰る家がないような感覚が苦しい。


いつもならシオリの家に行けば、必ず彼女が温かく迎えてくれていた。


しかし、今は。


シオリとの思い出が、今になってしみじみと温かく思い出せる。


最後に手を繋いだのは、先月だったか。最後にキスをしたのは先週だったか。


優しい彼女は、ついこの前までいたのだ。


こんな自分を愛してくれる人が。


そんな事を考えていると、左ポッケのケータイが鳴った。


「もしもし」