2LDKのお姫様

「香坂、新聞読むのか」


「私が行く時はいつも読んでるよ」


「へぇ……」


自分が言うのも何だが、その顔に新聞は似合わない。


「何、私が新聞読んでたら悪い」


「いやいや……すみません」


香坂の睨みにはすぐに一蹴される。


「香坂ちゃん……」


しかしそれは、大にだけと言うわけではない。


「紺野さん……、さっきから香坂ちゃん香坂ちゃんって何」


「ああ……間違えた。瑠璃ちゃんね。瑠璃ちゃん」


どうやら香坂は普段は下の名前で呼ばれているらしい。


「ちゃんはやめなさい、ちゃんは」


「だって、瑠璃ちゃんも今日わたしのことミノリって呼ばないじゃん」


「あんたが香坂ちゃんって言うからでしょ」


二人はどうやら相当仲が良いらしい。


「香坂瑠璃か……」


「何よ」


「いや、何でもないです」



結局俺たちは5時までカフェで過ごしていた。


「そろそろ帰るよ」


「そうだね」


大は何か忘れているような気がしたが、香坂との息詰まる休暇にとにかく解放されたかった。


「ま、また来なよ」


「うん」


外はもう夕暮れ時。


夕方の明かりの下に、エプロンを着た香坂の姿は、認めたくなかったが、あのお洒落なカフェによく似合っていた。