□ 灰色の猫さん
アイツが男に媚びを売るなんて姿は、なかなか想像出来ない。
いや、まず有り得ない話だ。
華奢によろめく細身に、日本人形の様な黒髪を揺らしながら、まるで睨んでいるかのような、灰色の猫目。
そして……
「あんた火、火持ってない」
恐ろしい性格。
猫の様に冷たいお嬢様。
俺の人生の最大級の天敵。
香坂。
「香坂、タバコ吸うんだっけ」
「たまにね。それは良いから、早く、火」
怖い。
タバコを加えながら、まるで睨み付けているように見ている。
「ど、どうぞ」
あの日、どうして、俺があんな状況にあっていたのか。
不条理だ。いや自業自得とも言えるのだが。
ただ今はそれを説く方法が知りたい。



