甘えるのが下手な彼女なりの、必死な愛撫とも言うべきか。
シオリが部屋を出たのは既に0時を回っていた頃だった。
7階に吹く夜風はとてつもなく寒い。
急いで大の部屋のチャイムを鳴らした。
抵抗がなかったと言えば嘘になる。でも躊躇えないほど、彼に会いたくなった。
別に欲求不満があるわけでは無い。でも一応髪は解いて行った。
取り敢えず声が聞きたい。
「いらっしゃい」
『大くん……』
彼の顔を見る前に、声にやられてしまった、というのが正直な所。
シオリは大の声を聞いて、思わず彼の胸に飛び込んだ。
「今日は珍しく積極的ですね」
と大は笑っていたが、もうどうでも良かった。いや、流されてはいけない。
『ごめんなさい、ちょっと躓いただけだから』
ゆっくりと、何事もなかったように体制を立て直した。
「せっかく来てもらったのに悪いんだけど、今日は無理なんだ」
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