2LDKのお姫様

遠出とは言っても、さほど遠くへは来ていない。



「結構寒いね……」



喫茶店を出てから、大は少し車を走らせた。



『1796円………』



シオリは移動中ずっと、そればかり呟いていた。



やはり結局、値段を見ると後悔の念が一気に蘇ったらしい。



財布はほんの少しだけ薄くなり、僅かに重みが増した。



「ほらシオリさん」



車を降りて、固く小さなでこぼこ穴のあいたコンクリートを少し歩く。



そして立ち止まって、大が遠い遥かを指差す。



『……』



沈んでいたシオリも、彼の声を聞いて我に帰り、その指差している方向に目をやる。



「大きいね」



彼の指差す方向には海があった。



『本当に……』



波は穏やかで、青黒い大きな水平線が、どこまでも続いている。



「本当に海みたいだね」



『海みたい』



シオリは彼の言葉に少し引っかかるものを感じた。



「そうだよ。だって湖だから」



そう、2人がやって来たのは海ではなく、湖だった。



「俺も初めて来た時は、
 海かと勘違いしたよ」



笑いながら、でも口調は少し得意気で。



『そういえば……』



よくよく考えてみれば、海特有の潮臭さや、遠くに見える舟が、ここには無い。



「海は遠いから」



シオリは前々から日本海を見に行きたいと言っていた。



『そうね。湾も海だけど、
 こっちの方が全然良い』



2人の住むマンションからも、湾なら直ぐに行ける。



「この湖、夏には泳げるんだ」



『それは遠慮しておくわ』



そう言ってシオリは軽く流した。



穏やかな風に髪は揺れない。