放課後ミステリークラブ ~存在しない13番目の教室~

もし、自分の通っている学校に、誰も知らない教室があったとしたら。

 あなたなら、どうする?

 これは、そんな不思議な謎から始まった、私たちの物語。

 六月の月曜日。

「うーん……何を書こうかなぁ」

 星見市立青葉小学校。

 六年二組の星野こはるは、放課後の図書室で頭を抱えていた。

 今日の国語の宿題は、『自分たちの学校について調べよう』。

 学校の歴史でも、行事でも、何でもいいらしい。

「学校の歴史っていってもなぁ……」

 こはるは本棚の間を歩き回る。

 そのとき、一番下の棚に、埃をかぶった分厚い本を見つけた。

「ん? こんな本、あったんだ」

 背表紙には『青葉小学校のあゆみ』と書かれている。

 ページをめくると、昔の運動会や給食、今とは違う木造校舎の写真が載っていた。

「へえ! 昔はこんな学校だったんだ!」

 夢中で読み進めていた、そのとき。

 ひらり。

 一枚の紙が床に落ちた。

「……何これ?」

 拾い上げると、そこには不思議な文章が書かれていた。

『十三番目の教室を探せ。ただし、大人には知らせるな。』

「十三番目の……教室?」

 こはるは首をかしげた。

 青葉小学校は、一学年二クラス。

 一年生から六年生まで、普通教室は全部で十二室しかない。

 十三番目なんて、あるはずがない。

「誰かのいたずらかな?」

 紙を裏返す。

 そこには、小さな星のマークが描かれていた。

「あれ……?」

 どこかで見たことがある。

 けれど、どうしても思い出せない。

 こはるは紙を本に戻し、司書の先生に不思議な紙があったことを伝えてから、図書室を出た。

 まさか、この一枚が大事件の始まりになるなんて、このときは想像もしていなかった。

     *

 翌日の火曜日。

 午前十時二十分。

「こはるー! 次、体育だよ!」

 親友の小鳥遊芽衣が、廊下の先から手を振る。

「待って、芽衣!」

 こはるが駆け寄ろうとした、そのときだった。

「……え?」

 階段近くの白い壁。

 そこに、数字が浮かんでいた。

『13』

「芽衣! あそこ!」

「ん? どうしたの?」

「壁に数字がある!」

 芽衣は目を凝らした。

「えー? 何もないよ?」

「そんなはず……」

 こはるが近づくと、数字はゆっくり形を変え、薄くなっていった。

 そして。

 すうっ。

 完全に消えてしまった。

「……うそ」

「こはる、怖いこと言わないでよ〜!」

 芽衣は笑っていたが、こはるは笑えなかった。

 昨日のメッセージ。

 十三番目の教室。

 そして、消えた数字。

 これって、本当に偶然なの?

     *

 昼休み。

「一ノ瀬くん、ちょっといい?」

 こはるが声をかけたのは、クラス一の秀才、一ノ瀬理人だった。

 窓際で本を読んでいた理人は、静かに顔を上げる。

「何?」

「実はね、壁に数字が出てきたの!」

「……数字?」

「うん! でも近づいたら消えちゃって!」

 理人は少し考えた。

「可能性は三つ」

「えっ、もう分かったの?」

「まだ何も分かってないよ。一つ目は見間違い。二つ目は誰かのいたずら。三つ目は光による現象」

「光?」

「例えば、窓から差し込んだ光が、何かの形を壁に映したとか」

「なるほど……!」

「何時ごろ見たの?」

「十時二十分くらい!」

「場所は?」

「東階段の近く!」

 理人はノートに書き込んだ。

「じゃあ、明日、同じ時間に確かめよう。君がどこに立っていたかも教えて」

「うん!」

 こはるは嬉しくなった。

 自分でも変な話だと思っていたのに、理人は真剣に考えてくれたのだ。

     *

 翌日。

 午前十時二十分。

 二人は東階段の廊下に立っていた。

「……あっ!」

 こはるが指さす。

 白い壁に、昨日と同じ数字が浮かび上がった。

『13』

「本当だったんだ……」

 理人も驚いた様子で呟く。

 そして、階段の窓を見上げた。

「なるほど。あれだ」

 窓には古い金属製の装飾板が取り付けられていた。

 その隙間から差し込む太陽の光が、壁に数字を映していたのだ。

「太陽の位置が変わるから、時間がたつと消えるんだよ」

「じゃあ、幽霊じゃないんだ!」

「最初から幽霊とは言ってないけどね」

 理人が小さく笑う。

 そのとき。

「あれ……?」

 こはるは装飾板の端を見つめた。

 そこには、小さな星のマークがあった。

「理人くん! この星!」

「どうしたの?」

「昨日、図書室で見つけた紙にも、同じマークがあったの!」

 理人の表情が変わった。

「……それ、詳しく聞かせて」

     *

 放課後。

 二人は図書室へ向かった。

 こはるは『青葉小学校のあゆみ』を開く。

「確か、このあたりに……」

 ところが。

「……え?」

 ページの隅に、赤い丸印がついていた。

 一つではない。

 二つ、三つ、四つ……。

「こんなの、昨日はなかったよ!」

 理人が本を覗き込む。

「誰かが新しくつけたのかもしれない」

「でも、どうして?」

 こはるは赤い丸印を見つめた。

 存在しない十三番目の教室。

 消える数字。

 星のマーク。

 そして、新しく現れた赤い印。

 まるで、誰かが次の問題を出しているみたいだった。

「ねえ、理人くん……」

「何?」

「もしかして、誰かが私たちに謎を解かせようとしてるのかな?」

 理人は答えなかった。

 ただ、赤い印をじっと見つめていた。

 その先に何が待っているのか。

 このときの私たちは、まだ知らなかった。

 十三番目の教室が、本当に存在することを――。

――第1話・完――