光輝 side
理紗が病気だと知ってから、数日が経った。
朝は迎えに行く。
帰りは必ず送る。
少しでも顔色が悪ければ、すぐに気づく。
それが当たり前になっていた。
「光輝、見て!」
昼休み、理紗が窓の外を指差した。
校庭の隅にある桜の木から、花びらが一枚、風に乗って舞っている。
「桜、まだ咲いてるね」
「もう散りかけだろ」
「でも、綺麗だよ」
理紗はそう言って、嬉しそうに笑った。
その笑顔を見た瞬間、光輝の胸が大きく跳ねる。
病気のせいではない。
理紗が笑っているだけで、心臓が苦しいほど騒ぎ出す。
「……どうしたの?」
「何が」
「顔、赤いよ?」
「赤くない」
「赤いってば」
理紗が身を乗り出して、光輝の顔を覗き込む。
近い。
近すぎる。
柔らかな髪が頬に触れそうになって、光輝は慌てて視線を逸らした。
「……見るな」
「どうして?」
「知らない」
理紗はきょとんとしたあと、楽しそうに笑った。
「光輝、変なの」
「おまえに言われたくない」
理紗は笑いながら、自分の席へ戻っていく。
その背中を、光輝は黙って見つめていた。
どうして、こんなに気になるのか。
理紗が誰かと話していると、落ち着かない。
理紗が他の男子に笑いかけると、胸の奥がざわつく。
理紗が苦しそうにしていると、自分のことのように怖くなる。
ただの幼なじみなら、こんなふうにはならない。
「……俺、理紗のこと」
そこまで呟いて、光輝は口を閉じた。
言葉にするのが怖かった。
その日の放課後、校門の前で理紗を待っていると、同じクラスの男子が理紗に声をかけた。
「岩下さん、一緒に帰らない?」
「えっ?」
理紗は驚いたように目を丸くする。
「途中までだけどさ」
「うーん……」
理紗が困ったように光輝を見る。
その瞬間、光輝の胸の奥がざらついた。
「理紗」
「光輝!」
理紗はすぐに光輝のもとへ駆けてくる。
「帰ろう」
「あ、うん」
光輝は理紗の鞄を取り上げた。
「えっ、今日は私が持つよ?」
「いい」
「でも……」
「俺と帰るんだろ」
口にしてから、自分でも驚いた。
まるで、誰にも渡したくないと言っているみたいだった。
男子が去ったあと、理紗が隣で首を傾げる。
「光輝、今日ちょっと怖いよ?」
「そうか」
「うん。いつもより不機嫌」
「元から」
「そうだけど、今日は特に」
理紗は光輝の顔を覗き込む。
「もしかして、焼きもち?」
「……は?」
「美咲ちゃんが言ってたの。好きな人が他の子と話してると、焼きもちを焼くんだって」
光輝の足が止まった。
「誰が、誰に」
「光輝が、私に?」
理紗は冗談のつもりで笑っている。
けれど、その無邪気な顔を見ていると、胸の奥に隠していた気持ちが、もう隠しきれなくなった。
理紗が好きだ。
ずっと隣にいてほしい。
誰にも取られたくない。
理紗の笑顔を、自分だけが見ていたい。
それなのに、自分には時間がない。
光輝は拳を握りしめた。
「……そうかもな」
「えっ?」
「焼きもち」
理紗の目が大きく見開かれる。
光輝は、もう後戻りできない気がした。
「俺は、理紗が他の男と帰るのは嫌だ」
「光輝……?」
「理紗が誰かに笑いかけるのも、楽しそうに話すのも……嫌だ」
声が震えそうになる。
それでも、理紗から目を逸らさなかった。
「俺は、おまえが好きだ」
夕暮れの道に、風が吹く。
桜の花びらが、ふたりの間を静かに舞っていた。
理紗は、何も言わない。
光輝はその沈黙が怖かった。
けれど、これ以上隠すこともできなかった。
「……今すぐ答えなくていい」
「光輝」
「でも、俺は……」
光輝は、理紗の手をそっと握った。
「これからも、俺の隣にいてほしい」
理紗はしばらく黙っていた。
やがて、頬を赤くしながら小さく笑う。
「私も……光輝の隣がいい」
その言葉だけで、光輝の胸がいっぱいになる。
嬉しい。
嬉しいのに、同時に苦しかった。
自分は、いつまで理紗の隣にいられるのだろう。
「……約束だからね」
理紗が小指を差し出す。
光輝はその小指に、自分の指を絡めた。
「ああ。約束する」
その約束が、永遠ではないと知っている。
それでも今だけは、理紗の隣にいられる。
光輝は握った手に、そっと力を込めた。
理紗が好きだ。
初めて自覚したその恋は、あまりにも幸せで――
あまりにも、切なかった。
理紗が病気だと知ってから、数日が経った。
朝は迎えに行く。
帰りは必ず送る。
少しでも顔色が悪ければ、すぐに気づく。
それが当たり前になっていた。
「光輝、見て!」
昼休み、理紗が窓の外を指差した。
校庭の隅にある桜の木から、花びらが一枚、風に乗って舞っている。
「桜、まだ咲いてるね」
「もう散りかけだろ」
「でも、綺麗だよ」
理紗はそう言って、嬉しそうに笑った。
その笑顔を見た瞬間、光輝の胸が大きく跳ねる。
病気のせいではない。
理紗が笑っているだけで、心臓が苦しいほど騒ぎ出す。
「……どうしたの?」
「何が」
「顔、赤いよ?」
「赤くない」
「赤いってば」
理紗が身を乗り出して、光輝の顔を覗き込む。
近い。
近すぎる。
柔らかな髪が頬に触れそうになって、光輝は慌てて視線を逸らした。
「……見るな」
「どうして?」
「知らない」
理紗はきょとんとしたあと、楽しそうに笑った。
「光輝、変なの」
「おまえに言われたくない」
理紗は笑いながら、自分の席へ戻っていく。
その背中を、光輝は黙って見つめていた。
どうして、こんなに気になるのか。
理紗が誰かと話していると、落ち着かない。
理紗が他の男子に笑いかけると、胸の奥がざわつく。
理紗が苦しそうにしていると、自分のことのように怖くなる。
ただの幼なじみなら、こんなふうにはならない。
「……俺、理紗のこと」
そこまで呟いて、光輝は口を閉じた。
言葉にするのが怖かった。
その日の放課後、校門の前で理紗を待っていると、同じクラスの男子が理紗に声をかけた。
「岩下さん、一緒に帰らない?」
「えっ?」
理紗は驚いたように目を丸くする。
「途中までだけどさ」
「うーん……」
理紗が困ったように光輝を見る。
その瞬間、光輝の胸の奥がざらついた。
「理紗」
「光輝!」
理紗はすぐに光輝のもとへ駆けてくる。
「帰ろう」
「あ、うん」
光輝は理紗の鞄を取り上げた。
「えっ、今日は私が持つよ?」
「いい」
「でも……」
「俺と帰るんだろ」
口にしてから、自分でも驚いた。
まるで、誰にも渡したくないと言っているみたいだった。
男子が去ったあと、理紗が隣で首を傾げる。
「光輝、今日ちょっと怖いよ?」
「そうか」
「うん。いつもより不機嫌」
「元から」
「そうだけど、今日は特に」
理紗は光輝の顔を覗き込む。
「もしかして、焼きもち?」
「……は?」
「美咲ちゃんが言ってたの。好きな人が他の子と話してると、焼きもちを焼くんだって」
光輝の足が止まった。
「誰が、誰に」
「光輝が、私に?」
理紗は冗談のつもりで笑っている。
けれど、その無邪気な顔を見ていると、胸の奥に隠していた気持ちが、もう隠しきれなくなった。
理紗が好きだ。
ずっと隣にいてほしい。
誰にも取られたくない。
理紗の笑顔を、自分だけが見ていたい。
それなのに、自分には時間がない。
光輝は拳を握りしめた。
「……そうかもな」
「えっ?」
「焼きもち」
理紗の目が大きく見開かれる。
光輝は、もう後戻りできない気がした。
「俺は、理紗が他の男と帰るのは嫌だ」
「光輝……?」
「理紗が誰かに笑いかけるのも、楽しそうに話すのも……嫌だ」
声が震えそうになる。
それでも、理紗から目を逸らさなかった。
「俺は、おまえが好きだ」
夕暮れの道に、風が吹く。
桜の花びらが、ふたりの間を静かに舞っていた。
理紗は、何も言わない。
光輝はその沈黙が怖かった。
けれど、これ以上隠すこともできなかった。
「……今すぐ答えなくていい」
「光輝」
「でも、俺は……」
光輝は、理紗の手をそっと握った。
「これからも、俺の隣にいてほしい」
理紗はしばらく黙っていた。
やがて、頬を赤くしながら小さく笑う。
「私も……光輝の隣がいい」
その言葉だけで、光輝の胸がいっぱいになる。
嬉しい。
嬉しいのに、同時に苦しかった。
自分は、いつまで理紗の隣にいられるのだろう。
「……約束だからね」
理紗が小指を差し出す。
光輝はその小指に、自分の指を絡めた。
「ああ。約束する」
その約束が、永遠ではないと知っている。
それでも今だけは、理紗の隣にいられる。
光輝は握った手に、そっと力を込めた。
理紗が好きだ。
初めて自覚したその恋は、あまりにも幸せで――
あまりにも、切なかった。



