その溺愛、予想外につき。

白を基調にした衣装。
金の飾り。
引き締まったシルエット。
短い黒髪。

そこにいたのは、さっきまでの私よりずっと涼に近い誰かだった。

「……すごい」

また思わず漏らしてしまう。

その瞬間。

「ほんとにすごい」

聞き覚えのある声がして、私はびくっと肩を揺らした。

振り向くと、部屋の入り口にもたれかかるように立っているるかと目が合った。

「るか!」

また真白さんの声が低くなる。

「ごめん。今度は呼ばれたんだよ。衣装の並び確認してって」

るかはそう言いながら、でも明らかに私を見て笑っていた。

その視線に、心臓が変な音を立てる。

「……似合ってる」

まっすぐ言われて、喉が詰まる。

さっきまで可愛いだのなんだのと言っていたのに、今度はそんなふうに真正面から言うなんてずるい。

私はとっさに目を逸らした。

「ありがとうございます」

「また敬語」

くすっと笑われる。

るかはそのまま近づいてきて、私のジャケットの袖口をちょんとつまんだ。

「これ、涼より似合うかも」

「そんなこと……」

「あるよ」

即答されたせいで、それ以上言葉が続かない。

こんなふうに近くで見られたら、衣装より自分の表情の方が危ない気がする。
耳まで赤くなっていたらどうしよう。

るかはふと首をかしげた。

「でも、まだちょっとぎこちない」

「……わかってる」

つい、少しだけむっとして返してしまう。

するとるかは、なぜか嬉しそうに笑った。

「うん。その感じ」

「その感じって?」

「その、ちょっと強がるみたいな顔。今の方が自然」

またそうやって見抜いたようなことを言う。

私は言い返したいのに、うまく言葉が出てこない。
るかの前だと、調子が狂う。

その時、衣装スタッフさんが後ろから声をかけた。

「るかくん、並び確認ならこっちも見て」

「はーい」

返事をしながらも、るかはすぐには離れなかった。
ほんの少しだけ身を寄せて、小さな声で言う。

「緊張してる?」

どきっとする。
そんなふうに、みんなに聞こえない声で話しかけられると困る。

私は少しだけ間を置いてから、できるだけ涼っぽく答えた。

「……別に」

るかの目がふわっと細くなる。

「今の、いいね」

そう囁かれた瞬間、胸の奥が熱くなった。

ほめられたのは話し方のはずなのに、どうしてかそれ以上の意味があるみたいに聞こえてしまう。
だめだ。
るか相手だと、いちいち意識しすぎる。

るかは満足したように笑ってから、やっと離れていった。

私はその背中を見送りながら、こっそり息を吐く。

まだ何も始まっていない。
私は兄の代わりで、るかは同じグループのメンバー。
それだけなのに。

どうしてこんなに、ひとつひとつの言葉が心に残るんだろう。

鏡の中では、アイドル衣装を着た天宮涼が立っている。
でもその中身は、るかに一言声をかけられるだけで簡単に揺れてしまう天宮ふわりのままだった。