ヒミツの身代わり王子様

その日の昼休み、梨乃は親友と一緒に購買へ向かっていた。
その途中、中庭のベンチの近くを通りかかったとき、クラスメイトの男子と話す琥珀の声が聞こえてきた。

「なあ橘、お前ってさ、どんな女の子がタイプなの?」

何気ない男子の問いかけに、琥珀はいつも通りの涼しげな笑顔を浮かべて答えていた。

「タイプ、か……。そうだなあ」

少し考えてから、琥珀はサラリと言った。

「――ボブとか、可愛いと思うけど」

「ボブ!? え、お前ロングヘアが好きそうなイメージあったけど!」
「そうか? なんか、ボブの女の子って小動物っぽくて可愛いじゃん。特に、髪を耳にかけたときとかさ……」

その場に立ち尽くしていた梨乃の胸が、ズキリと痛んだ。

(ボブ……?)

梨乃の髪は、ずっと大切に伸ばしてきたロングヘアだった。琥珀が「綺麗だね」と褒めてくれたこともあったからこそ、ずっと伸ばし続けていたのに。

「どうしたの、梨乃? 急に立ち止まって」

親友に声をかけられ、梨乃は慌てて「うううん、何でもない!」とごまかした。
だけど、頭の中はその言葉でいっぱいだった。

(ボブが好きなんだ……私、ずっとロングだったのに……)