よろよろと彼はダイニングテーブルについた。丁度湖白のマグカップが置いてある方とは反対側に座ってじっとしている。
ケトルに水を少し足し、再び沸騰させる。湖白が振り返ると、彼は湖白のことを見つめていた。
「……そんなにじっと見られるほど異質なことをしているわけじゃないと思うのだけど」
「お姉さん、ずっと動いてる」
「私の家で、私が家主だからね。それで、飲み物はわかったけれど他はどういうのが食べたいとかいうのはあるの?」
「どういうの?」
また手応えの薄い反応が返ってきて、会話とはこんなに難しいものだったのかと頭を抱えたくなっていた。変化球を投げていないのに、全てが変化球で返ってくるため、次の一手がすぐ出せないのだ。ワンクッション、どうしてもおいてしまう。
「さっきも言ったけど、食パンはあるからそのまま食べるのでも、トーストするのでも、時間はかかるけどフレンチトーストもどうにかなるわよ。白米はあるけれど炊いてないから時間がかかるわね。インスタントでいいならスープも出せる、うん、あったあった」
食糧庫をごそごそとあさってストックを見ながら提案していた。何がヒットするのか分からない今、何でもぶつけてみる以外になかった。
「どうしてもというならインスタントのラーメンもカップ麺もあるわよ。昨日体調が悪かった人に食べさせたいものではないけれど、どうしても食べたいなら譲歩するわ」
乾麺もうどんやそば、パスタ麺もあったが炊飯器が仕事をしてくれるならまだしも、鍋の前に立って茹でるのは休日の朝からさすがにやりたくなかったためパスした。
「食べたいものはあった?」
「……わからない」
「嫌いな食べ物しかなかった?」
彼は首を横に振った。お湯が沸いたため、マグカップに粉を入れてお湯を注ぐ。そしてそのマグカップを彼の手元に置いた。
「まずはキャラメルラテをどうぞ。熱いからやけどしないように気をつけて」
彼は両手でマグカップを持ちながらふうっと息を吹きかけた。少しだけ口に含み、喉が小さく鳴る。
「……おいしい」
「そう。口に合ってよかったわ。何が食べたいのかわからないから質問を変えるわね。嫌いな食べ物はあるの?」
彼は再び首を横に振った。おそらくそんなことはないと思うが、湖白が挙げたものの中には嫌いなものはなかったということはわかったため、湖白は6枚切り食パンの残りの4枚のうち、1枚をトースターにセットした。
「まず1枚食べきって。まだ食べれそうなら2枚食べてもいいわ。スクランブルエッグは食べれる?」
「それ、何?」
「……卵をぐちゃぐちゃにして焼いたやつよ」
「食べられるよ。食べられないもの、多分ないし。あと、お姉さんが一番楽なのでいい。時間もお金もかけないで」
反応は薄いまま、言葉数だけが多かった。そして出てきた言葉が酷く寂しいものに聞こえて、湖白は何とも言えない気持ちになった。
「大したものなんて逆に作れないのよ、私は」
それだけ言うと、冷蔵庫からイチゴジャムとバターを取り出して彼の前に置いた。ジャムを塗るときのためのスプーンも添える。卵は1つ割って、少し牛乳を混ぜる。塩コショウを振ってから熱したフライパンにじゅっと流し入れた。
トーストも焼けたため、スクランブルエッグを乗せた皿の横にトーストも置く。そして彼の前に置いた。フォークとスプーンと箸を最後に出して、湖白は向かいの席に座った。
「なんで、こんなに?」
「こんなにってどれのこと?」
「朝ご飯もだけど、食器も、食べる道具も」
「朝ご飯は選んでないでしょ。私が適当に用意しただけ」
「これとこれ」
彼が指をさしたのはジャムとバターだった。
「トーストに塗れるものを出しただけよ。どっちでもいいし、要らないならそれでもいいわ」
彼はおずおずとバターに手を伸ばした。慣れない手つきでバターナイフを持ち、バターが固かったのか、何度か上手くバターを切れずに滑っていたが、控えめに塗ってサクサクと音をたてながら一口ずつゆっくりと噛んで食べていた。スクランブルエッグはスプーンですくって、こちらも少しずつ食べている。長い間胃に何も入っていなかったのだとしたらその食べ方は正解ではあるし、ゆっくりであることを咎める気もなかったため、自分のは5分で終わってしまったはずの朝食の時間は、彼の観察を含めると随分と長いものとなった。湖白が冷え切ったキャラメルラテの最後の一口を飲み切ってから時計を見ると、あと5分で8時になるところだった。
朝食は食べさせた、それならば次のミッションに移らなくてはと湖白が思ったその矢先だった。ローテーブルの上に置いていたことすら忘れていたスマートフォンが途切れることなく震えたのは。
ケトルに水を少し足し、再び沸騰させる。湖白が振り返ると、彼は湖白のことを見つめていた。
「……そんなにじっと見られるほど異質なことをしているわけじゃないと思うのだけど」
「お姉さん、ずっと動いてる」
「私の家で、私が家主だからね。それで、飲み物はわかったけれど他はどういうのが食べたいとかいうのはあるの?」
「どういうの?」
また手応えの薄い反応が返ってきて、会話とはこんなに難しいものだったのかと頭を抱えたくなっていた。変化球を投げていないのに、全てが変化球で返ってくるため、次の一手がすぐ出せないのだ。ワンクッション、どうしてもおいてしまう。
「さっきも言ったけど、食パンはあるからそのまま食べるのでも、トーストするのでも、時間はかかるけどフレンチトーストもどうにかなるわよ。白米はあるけれど炊いてないから時間がかかるわね。インスタントでいいならスープも出せる、うん、あったあった」
食糧庫をごそごそとあさってストックを見ながら提案していた。何がヒットするのか分からない今、何でもぶつけてみる以外になかった。
「どうしてもというならインスタントのラーメンもカップ麺もあるわよ。昨日体調が悪かった人に食べさせたいものではないけれど、どうしても食べたいなら譲歩するわ」
乾麺もうどんやそば、パスタ麺もあったが炊飯器が仕事をしてくれるならまだしも、鍋の前に立って茹でるのは休日の朝からさすがにやりたくなかったためパスした。
「食べたいものはあった?」
「……わからない」
「嫌いな食べ物しかなかった?」
彼は首を横に振った。お湯が沸いたため、マグカップに粉を入れてお湯を注ぐ。そしてそのマグカップを彼の手元に置いた。
「まずはキャラメルラテをどうぞ。熱いからやけどしないように気をつけて」
彼は両手でマグカップを持ちながらふうっと息を吹きかけた。少しだけ口に含み、喉が小さく鳴る。
「……おいしい」
「そう。口に合ってよかったわ。何が食べたいのかわからないから質問を変えるわね。嫌いな食べ物はあるの?」
彼は再び首を横に振った。おそらくそんなことはないと思うが、湖白が挙げたものの中には嫌いなものはなかったということはわかったため、湖白は6枚切り食パンの残りの4枚のうち、1枚をトースターにセットした。
「まず1枚食べきって。まだ食べれそうなら2枚食べてもいいわ。スクランブルエッグは食べれる?」
「それ、何?」
「……卵をぐちゃぐちゃにして焼いたやつよ」
「食べられるよ。食べられないもの、多分ないし。あと、お姉さんが一番楽なのでいい。時間もお金もかけないで」
反応は薄いまま、言葉数だけが多かった。そして出てきた言葉が酷く寂しいものに聞こえて、湖白は何とも言えない気持ちになった。
「大したものなんて逆に作れないのよ、私は」
それだけ言うと、冷蔵庫からイチゴジャムとバターを取り出して彼の前に置いた。ジャムを塗るときのためのスプーンも添える。卵は1つ割って、少し牛乳を混ぜる。塩コショウを振ってから熱したフライパンにじゅっと流し入れた。
トーストも焼けたため、スクランブルエッグを乗せた皿の横にトーストも置く。そして彼の前に置いた。フォークとスプーンと箸を最後に出して、湖白は向かいの席に座った。
「なんで、こんなに?」
「こんなにってどれのこと?」
「朝ご飯もだけど、食器も、食べる道具も」
「朝ご飯は選んでないでしょ。私が適当に用意しただけ」
「これとこれ」
彼が指をさしたのはジャムとバターだった。
「トーストに塗れるものを出しただけよ。どっちでもいいし、要らないならそれでもいいわ」
彼はおずおずとバターに手を伸ばした。慣れない手つきでバターナイフを持ち、バターが固かったのか、何度か上手くバターを切れずに滑っていたが、控えめに塗ってサクサクと音をたてながら一口ずつゆっくりと噛んで食べていた。スクランブルエッグはスプーンですくって、こちらも少しずつ食べている。長い間胃に何も入っていなかったのだとしたらその食べ方は正解ではあるし、ゆっくりであることを咎める気もなかったため、自分のは5分で終わってしまったはずの朝食の時間は、彼の観察を含めると随分と長いものとなった。湖白が冷え切ったキャラメルラテの最後の一口を飲み切ってから時計を見ると、あと5分で8時になるところだった。
朝食は食べさせた、それならば次のミッションに移らなくてはと湖白が思ったその矢先だった。ローテーブルの上に置いていたことすら忘れていたスマートフォンが途切れることなく震えたのは。



