終わった恋の、その後で。 〜プレイボーイな曲者御曹司は私にだけ奥手らしい〜

無意識に眉間の皺が深まったものの、二人は丁度出てくるところで、女性の方は中途採用で最近入ってきたばかりのデザイナーだった。

「――いや、ほんとそうなんですよ。気に障ること言ったかと思って緊張しちゃいましたもん」

苦笑いしながら出てきた彼女に伊佐美は眦を下げた。

「でしょ。あの人だいぶ分かりにくいんすよ。でも刺さってる時は地味に早口になるんで、まさにあの質問責めは手応えあった証拠ですから。実際メールでもデザイン褒めてましたよ」

上下共に長い睫毛が印象的な眼力の強い瞳が一段と甘やかな色香を放ち、相手の女性は視線を逸らしながら小刻みに何度も頷く。

「なら怒ってたんじゃなくて、興奮してたってことかぁ」

「っすね。初見殺しっていうんですか?感情が薄いせいで勘違いさせるタイプですけど、真面目で優しい人ですから安心して話してみてください」

「分かりました。ありがとうございます、伊佐美さんの話聞いたらほっとました」

どうやらただ雑談をしていただけではなかったらしい。

つい昨日、伊佐美について同席したデザイン提案の場に彼女もいた。

相手の担当者がデザインの初稿を見て、好評なのか不評なのか分かりづらい言い回しをしたうえ、矢継ぎ早に質問を始めたためデザイナーの彼女の表情が徐々に固くなっていたのを覚えている。

理央自身も先方は納得していないのではと思ったほどだが、伊佐美は担当者と話をまとめてしまって、しかもその日のうちにデザインを絶賛する内容が綴られたメールが届いた時には驚いたものだ。

「伊佐美さん。清水社長が急ぎ連絡を欲しいそうです」

「あぁ、悪い。またこっちまで来てもらっちゃったな」

「いえ。大丈夫です」

笑顔を貼り付けて淡々と返したその日、就業時間後にペットボトルを机に置かれた。

ミニボトルのそれはレモンティーで、理央が社内の自販機でよく購入するものだった。

――飄々としているけど、よく見ている人なんだ。

視線を上げる前に心地よい低音が響いた。

「いつもごめんね。喫煙所来るの面倒でしょ」

見上げると高い鼻梁を指先で擦りながら苦い笑みを浮かべる姿があった。

「いえ。面倒と言うより、何してるのかなと思ってました。これ、ありがとうございます」

率直に言えば伊佐美は喜色を孕んだ吐息を溢した。

ちょっと失礼な言い方になった自覚はあったが伊佐美なら許してくれそうな気がして真っ直ぐ見つめると、やはり眉尻が下がり大きな口が持ち上がる。

「だよな」

「でも今日ので何してるかちょっとだけ分かった気がしました。あぁやってパイプ役をしてたんですね」

思い返せば喫煙所を問わず、伊佐美はよく人と話しているし、相手は総じて明るい表情をしていた。どんな時も、相手が誰でもだ。

「あー……」

理央の言葉が意外だったのか伊佐美は目を丸くしたが、直ぐに口端を緩めると肩を落として穏やかに言った。

「誤解で萎縮して実力発揮出来ないのは勿体ないだろ」

それが今日の行動だったのかと彼の口から明かされて、理央は自分の先入観は間違っていたのだと気付かされた。