終わった恋の、その後で。 〜プレイボーイな曲者御曹司は私にだけ奥手らしい〜

理央の想い人である東雲零士が桜井千春という営業部の人間と交際を始めた時は、理央にとって別の選択を考え始めるタイミングなのではと少し期待したが、しかし彼女は相変わらずしぶとかった。

「まだ引き摺ってたら駄目ですか?私、まだ友達にすら戻れてないんですよ」

そんな時、意外なことに、浮かれてもいいはずの千春が意外な行動に出た。

個人的な事で相談があると言って、零士でも、理央でもなく、伊佐美を呼び出したのだ。

休憩時間、人目を憚り訪れた資料室前。

他人の機微に聡い彼女は、ずっと零士と理央の間に漂う違和感を察知しており、気になっていたらしい。

「東雲くんは理央さんを避けてます。そのくせ気にしてて。なのに聞いても教えてもらえないんです。伊佐美さんなら、何か知っていませんか?」

本人達が言わない事を明かすわけがないと分かっているだろうに、切実な面持ちから控えめな彼女の不安が剥き出しになっていた。

しかもそれをわざわざ相談してくるのだから、伊佐美が理央を特別扱いしている事に単なる同僚以上のものがあると見抜かれているのだろう。

「桜井も分かってると思うけど、それは俺が話すことじゃないよ。お前から二人に話してみれば良い」

「でも教えてもらえないんです……」

「遠慮するから逃げられるんじゃないか?桜井は優しいから、自分が思ってるよりもっとしつこくして良いと思うけどな。ごめんね、説教じみたこと言って」

芯は強いが、相手の感情を察しやすいが故に控えめな桜井に釘をさすと、彼女は項垂れたものの静かに頷いた。

「いえ。その通りだと思います……――ありがとうございます。ずっと引っかかっていたんです……」

「まぁ、そうだよな」

恋人が違う異性を気にかけていることに気付いてしまえば、その違和感を無視することは出来ないだろう。

「すみません。言いづらいこと教えてくださって」

無茶な要求を指しているのだろうが、それだけ桜井が悩んでいたことは十分に伝わっている。

「いいって。でも秘密にしてくれよ。俺の言ったことは気にしなくていいから、桜井は自分の気持ちを大事にしてくれ……」

「分かりました」

今日の出来事で何かが変わるとは限らない。
だが、千春は決意を秘めた眼をしていた。