そんな復讐計画に心を注いでいては、自分が何を好きで、何を欲するかなど、立ち止まって見つめることなどしなかった。
恋人はおろか、誰かと深く関係を築くことはなかった。
後腐れのない相手と経験だけを重ねて、心の重ね方を学ぶことからは逃げた。
その方が楽でもあった。
そんな日々に変化が生まれたのは、二つ年下の佐山理央が現れてからだ。
第一印象はサバサバとした雰囲気の女性。
営業部は心身ともにバイタリティが必要とされるが、彼女は覇気があって明るいので、こっちがケアを間違えなければ長く持ちそうだという安心感。
人と密接に関わる箱作りの仕事に、業界大手のグロウテックに憧れ夢を抱いて入社したのの現実の厳しさに去ってゆく者は多い。
理央みたいなタイプは溜め込み型だろう。面には出さないが、内心は彼女なりの価値観でいろいろ不満に思ってそうだ。
研修後に教育係となったが伊佐美は理央を連れて回りながら、いつも通り相手を観察し、そんな風に分析していた。
――彼女を清水社長に会わせたらどんな反応をするだろう。
ひと癖二癖ある協力会社の社長は自らも現場に出る職人で、大体の人間はここでまず躓くと言われる。
実際、彼は人間性に問題があるわけではないものの、口が悪く、営業の人間を値踏みする人物だった。
伊佐美もはじめは上手くやれているつもりだったが、一度手痛い思いをさせられた経験がある。
どうせ避けては通れない相手なので、現場確認で会う機会に理央を紹介すると、彼女は会釈するなり腹の奥から響く声で清水に挨拶した。
「佐山理央です。未熟な点があるかと思いますが、勉強させていただければと思いますので、どうぞよろしくお願いします!」
日に焼けた顔で糸のような眼の奥にいつも鋭い眼光を秘めている清水は、一瞬目を見開いたものの、理央を見ては、ぶっきらぼうに言った。
「はぁ……またえらい可愛らしいお嬢様やな。こんな現場にまでバッチリメイクか」
会社の備品のジャンバーを羽織っているが、理央は白い肌に似合うベージュのパンツスーツを着用しており、緩くウェーブのかかった明るいショートヘアにフルメイクでリップで濡れた唇が目立つ。
清水はその華々しい雰囲気に、仕事よりも外見に磨きをかけていると思ったのかもしれない。
いや、もしくはただの当て擦りか。
何と返すのか理央を見遣ると、物怖じするどころか彼女は極めて美しい笑みを浮かべて言った。
「はい。私が着飾るとクライアントが安心しますので。洒落たものを求められるんですから、窓口になる私達営業の人間こそ洒落た雰囲気を出していかないと、と思ってます」
――結構言うじゃん。
最初に興味を惹かれたのは、この時だった。
それは偏屈な清水も同様で、彼は破顔して何度も頷いた。
「ははぁ〜、そりゃそうや!確かに!あんた面白いなぁ!佐山さんやっけ?伊佐美君よりええ子やないか」
一転してにこにこする清水に、伊佐美は理央の評価を修正した。
覇気があって華がある、が……棘もある。
まるで薔薇みたいな人だ、と。
恋人はおろか、誰かと深く関係を築くことはなかった。
後腐れのない相手と経験だけを重ねて、心の重ね方を学ぶことからは逃げた。
その方が楽でもあった。
そんな日々に変化が生まれたのは、二つ年下の佐山理央が現れてからだ。
第一印象はサバサバとした雰囲気の女性。
営業部は心身ともにバイタリティが必要とされるが、彼女は覇気があって明るいので、こっちがケアを間違えなければ長く持ちそうだという安心感。
人と密接に関わる箱作りの仕事に、業界大手のグロウテックに憧れ夢を抱いて入社したのの現実の厳しさに去ってゆく者は多い。
理央みたいなタイプは溜め込み型だろう。面には出さないが、内心は彼女なりの価値観でいろいろ不満に思ってそうだ。
研修後に教育係となったが伊佐美は理央を連れて回りながら、いつも通り相手を観察し、そんな風に分析していた。
――彼女を清水社長に会わせたらどんな反応をするだろう。
ひと癖二癖ある協力会社の社長は自らも現場に出る職人で、大体の人間はここでまず躓くと言われる。
実際、彼は人間性に問題があるわけではないものの、口が悪く、営業の人間を値踏みする人物だった。
伊佐美もはじめは上手くやれているつもりだったが、一度手痛い思いをさせられた経験がある。
どうせ避けては通れない相手なので、現場確認で会う機会に理央を紹介すると、彼女は会釈するなり腹の奥から響く声で清水に挨拶した。
「佐山理央です。未熟な点があるかと思いますが、勉強させていただければと思いますので、どうぞよろしくお願いします!」
日に焼けた顔で糸のような眼の奥にいつも鋭い眼光を秘めている清水は、一瞬目を見開いたものの、理央を見ては、ぶっきらぼうに言った。
「はぁ……またえらい可愛らしいお嬢様やな。こんな現場にまでバッチリメイクか」
会社の備品のジャンバーを羽織っているが、理央は白い肌に似合うベージュのパンツスーツを着用しており、緩くウェーブのかかった明るいショートヘアにフルメイクでリップで濡れた唇が目立つ。
清水はその華々しい雰囲気に、仕事よりも外見に磨きをかけていると思ったのかもしれない。
いや、もしくはただの当て擦りか。
何と返すのか理央を見遣ると、物怖じするどころか彼女は極めて美しい笑みを浮かべて言った。
「はい。私が着飾るとクライアントが安心しますので。洒落たものを求められるんですから、窓口になる私達営業の人間こそ洒落た雰囲気を出していかないと、と思ってます」
――結構言うじゃん。
最初に興味を惹かれたのは、この時だった。
それは偏屈な清水も同様で、彼は破顔して何度も頷いた。
「ははぁ〜、そりゃそうや!確かに!あんた面白いなぁ!佐山さんやっけ?伊佐美君よりええ子やないか」
一転してにこにこする清水に、伊佐美は理央の評価を修正した。
覇気があって華がある、が……棘もある。
まるで薔薇みたいな人だ、と。



