終わった恋の、その後で。 〜プレイボーイな曲者御曹司は私にだけ奥手らしい〜

「圭吾、お前をうちの会社の跡継ぎにしてやる。部活は辞めて勉強に力を入れろ。私の指定する大学に入学するには今からじゃ遅いぐらいだが、手を尽くそう」

突然現れた父に対する感情は、嫌悪。

どうやら三度の結婚に失敗した父は、祖父から跡継ぎを育成出来ないのなら社長にするつもりはないと言われたらしい。

曽祖父の代から続く不動産会社は今や都市開発事業を行なうまでのディベロッパーで、同族経営をしている。

父には兄弟がいたが、叔父はまだ未婚。

そこで唯一の息子である自分に白羽の矢が立ったのだ。
あの男にとって、子供は自分の立場を守るための道具に過ぎない。

「あなたの人生だから、好きにして良いの。待ち伏せなんてしないように私がちゃんと話をつけるから」

母はそう言ったが、高校生という青臭い当時の自分は『いい事』を思いついた。

このまま伊佐美が拒否し続ければ父は会社を手に入れることは出来ない。

だが、それだけじゃ面白くない。

「いや、必要ないよ。跡継ぎに育てたいってなら、あいつの自慢の息子になるよ」

「圭吾、なに考えてるつもり?」

「どうせ叩き落とすならもっと高いところの方がいいってだけ」

母は止めたが、復讐のチャンスをみすみす逃すことなんて考えられなかった。

「部活は辞めないし、母さんは何も心配いらないよ」

それからの日々は目紛しく過ぎて、大学では父の望む学部に入り、父の望む資格を取り、社会人になってからは下積みとしてグロウテックに入社した。

「あなたには自分の幸せだけ考えて欲しいの」

そう何度も母に言われたが、幸せなんて想像出来ない。

むしろ父親が手にしかけているものを壊す方が魅力的だった。

「母さんこそ、もっと怒った方がいいよ。優しすぎる」

祖父は自分の目が黒いうちは社長を退く気がないと宣言しており、十分に余裕があった。

父は専務に収まっていて、祖父が会長に退けば社長の椅子は自分のものだと完全に思い込んでいた。

『敷かれたレールに不満を持つ奴もいるが、黄金のレールに乗らないのはただの馬鹿だ』

これは父の口癖だったが、まさかそのレールが既に終点に向けて路線変更されてるなど想像すらしてないだろう。