終わった恋の、その後で。 〜プレイボーイな曲者御曹司は私にだけ奥手らしい〜

夜の街を歩き回りながら、お勧めの店を提案し合っていた日々がまるで遠い昔のようだ。

連れてこられた場所は、看板やディスプレイの類が一切ない、コンクリート調の壁に古民家のような引き戸が一つある建物の前。

扉の斜め上には横長の灯りが一つだけあったものの、それ以外に特徴といった特徴はあまりなく印象に残らない、まさに隠れ家だった。

「看板がないお店なんですね……」
「あぁ。気に入っててさ。叔父と一緒によく利用させてもらってる」

伊佐美が以前、叔父とはよく話すと言っていたのを思い出して、ランドエッジの新社長として紹介されていた写真が脳裏に浮かんだ。厳しそうだが真摯な眼をしている壮年の男性だった。

伊佐美は引き戸を開けては片手を差し出し理央を促す。

「足元、暗いから気をつけて」

「ありがとうございます……こういうお店初めてなんで、色んな意味で緊張するんですが……」

今まで一緒に訪れていた店と明らかに異なって、不慣れな場への興味半分、値段も異次元ではないかと警戒心が募る。

すると伊佐美は喜色を孕んだ吐息を溢した。

「そう気負うなよ。それに今夜は諸々のお詫びってことで、俺の奢りだから。確か日本酒好きだったよな?」

「覚えてくれてたんですね……」

「忘れるわけないだろ。力説してたのお前だぞ」

そう言えばそんなこともあったと懐かしい記憶をなぞりながら、今度は遠慮なく伊佐美の手を取った。

エスコートされ店内に入ると、薄暗い階段を降りた先に、灯籠の上品な明かりが足元を照らす廊下が見えた。

その道を通り抜けるとやっと店舗本来の入り口に辿り着く。

燻銀の暖簾を潜った先にあったのは、まるで時代劇の座敷に上がったような荘厳な雰囲気を纏う和風の建物に、幻想的なプロジェクションが融合する空間だった。

――なんて危うい美しさだろう。

侘び寂びに重きを置いた造りに対して、華美なプロジェクションがなんとも反抗的。絶妙なバランスでそれぞれの持ち味が混ざり合っている。

そして極めつけにはカウンター横の大きな金魚鉢。

広い水槽を悠然と泳ぐ一匹に目が引かれて見つめていると、いつの間にか羽織を重ねた着物に身を包む恰幅のいい男性が現れた。