終わった恋の、その後で。 〜プレイボーイな曲者御曹司は私にだけ奥手らしい〜

そう言われると強くは出れない。
立場は隠されていたが、父親と折り合いが悪いといった話は聞いていた。

しかも伊佐美の母と別れてから二度再婚したものの子供が出来なかったために、一人息子である伊佐美に何かと口出ししてくるらしく手を焼いていたようだ。

それが今期、伊佐美が副社長に就任した際、どういう経緯か分からないが社長となったのは彼の叔父の方だった。

父親はどうやら別の子会社の社長に就任しているので、複雑な家庭に一端の決着がついたのだろう。

「それなら、まぁ……分かりました」

「よし。じゃあ飯、いつもの感じでいい?」

言えば伊佐美はスマホを取り出した。

いつもの感じというのは『負け犬座談会』だが、これには二人だけのちょっとしたルールがある。

それは指定する店は相手が入ったことのない店舗を選ぶこと。

前回、最後に店を選んだのは伊佐美なので次は理央の番だ。

理央は視線を自身の胸元へと下ろし、式に参列するために身に着けていたドレスを見つめた。

「いいですけど……この恰好で入るとなると限られませんか?私、直ぐには思いつかないですよ」

夕刻でダイニングバーや居酒屋が開いてくる時間だが、お互いドレッシーな装いだ。

この姿でカジュアルな店に入ること自体が駄目ではないのだろうが、それでもやはりある程度場所は限られてくる。

「今日は俺が選ばせて。MAREってところ、創作和食料理の店でお前の好きな茶蕎麦もあるから、そこでいいか?」

「はい……」

「なら決まりだな」

伊佐美は直ぐに電話を一本かけると、親しげな雰囲気で会話したあと『じゃあ、今から行きますね』と告げて切ってしまった。

そしてタイミング良く、黒塗りの高級車が現れた。

それを見た理央は少し浮足立ってきた気持ちが現実へと引き戻される。

「……今更ですけど、いいんですか?大企業の副社長が気紛れにプラプラして」

伊佐美から誘ってくれているが、副社長に就任したばかりの彼は多忙なのではないだろうか。

しかし相変わらず、ふっと笑われた。

「いいんだよ。佐山に会えるかもと思って、今日はもう予定入れてないしな」

そんな風に言われ息を呑み込むように口をつぐんだ。気を抜くとまた心臓が跳ねてしまいそうだったのだ。

もう二度と、再会に運命を感じたりしないと決めたのに。

期待してはいけないと分かっているのに、伊佐美の言い方ひとつに感情が揺さぶられてしまいそうだ。