終わった恋の、その後で。 〜プレイボーイな曲者御曹司は私にだけ奥手らしい〜

伊佐美はやっと合点がいったようで、しかし悪びれる様子はなく間の抜けた声を漏らした。

「あー……」

「辞めたあと専務に就任って、色々聞かれて凄かったんですからね……私、お客様窓口じゃないのに。特に今年なんて副社長に昇格されて……、一応おめでとうございます」

そう、この伊佐美圭吾という男が二年前にグロウテックを辞めたのは、親会社である総合不動産会社のディベロッパーであるランドエッジに所属するためだった。

伊佐美が辞めた直後、ランドエッジで専務就任が発表されて理央は大いに動揺した。

そして翌年に至る現在、彼は専務から副社長へと昇格したのだ。

伊佐美というのは母方の姓らしく、実はランドエッジの経営者一族の御曹司だったという事実。

子会社であるグロウテックで立場を伏せて下積みしていたことが分かり、その日からしばらくの間、特に交友が深かった理央は女性社員から質問責めに遭った。

その内容は多岐に渡り、あまつさえ連絡先を教えてもらえないかだの、食事会を開けないかといった無茶な内容まで。

それらに波風立てず対応していく側の気持ちを、この男が考えたことはないだろう。

「悪かったよ。でも佐山なら平気だろ?あの清水の親父さんと社内爆速で飯食いに行けたぐらいだしさ」

清水というのは協力会社の内装業の社長で、プライドが高く偏屈だが仕事が一級品の曲者だ。

理央は思わず眉を顰めた。

玉の輿を狙う女性と清水とのコミュニケーションを同じ天秤にかけるというのはお門違いではないだろうか。

「……職人さんと繊細な女性を一緒にしないでください」

「一緒だろ。工芸に秀でた人間ってのはだいたい繊細なんだぞ」

聞く人が聞けば偏見だと突っ込まれそうなセリフをさらりと口にした伊佐美は豪快に笑って、あの人元気にしてるかな、などと呟く。

それから理央の訝しげな視線に対し悪戯に目尻を和らげた。

「まぁ許してくれよ。複雑な家庭ってやつだから」