終わった恋の、その後で。 〜プレイボーイな曲者御曹司は私にだけ奥手らしい〜

理央は周囲が知らない伊佐美の良さをいくつも知っている。

皆は彼を”軽すぎる”というが、そうじゃない。

口が上手いのは防御で、自分のペースを乱さないための武装だ。

女性関係だって寂しさを紛らわしていただけで、ちゃんと本気になった相手が出来れば報われなくとも向き合う気概がある。

身体を鍛えているのもモテるためじゃなくて、現場を周るには身体が資本だからと言っていた。

彼の本質は、――いつも思いやりがあって温かい。

ずっと間近で姿を見てきて、こんな人が、零士への未練ごと自分を浚ってくれたらどんなにいいかと憧れていた。

ただの憧れ。

そう思っていたが、しかしそうじゃなくて、きっと切実な願いだったのだ。

――立て続けに失恋かぁ。

同じ相手に二度負けると毒気も抜かれて、理央は盛大な溜息を零した。

それから、ついさっき辿り着いた風を装って双眸を細めて声を張った。

「お二人さーん!ちょうど良かった、お土産あるよ」

二人は理央を見て自然な笑みを向け歩み寄る。

千春も伊佐美もまさか聞かれていたと思っていないだろう。

「理央さん、お疲れ様です。おかえりなさい」

「少し早くないか?信号無視してない?」

「しませんよ!特別に地酒も買ったのに、もう伊佐美さんの分は無しにします。千春にあげる」

そんな他愛ないやり取りをして、日常へと戻る。

初恋の未練が消えたことを実感しながら、伊佐美への想いに蓋をして。

それから一月と経たない間に、千春の仲介のもと零士と二人で話す機会が設けられ、あっさりと和解に至った。

迷惑だろうから再会して運命を感じたことなどは伝えず、気まずい別れ方をしたことを謝り、そしてまた友人に戻りたいと自分の気持ちを素直に伝えた。

すると誤解があったことが判明し、零士とは幼馴染に戻れた。

そんなことがあっても、伊佐美に”まだ少し引き摺っている”と言えば、負け犬座談会はいつも通り開催されて、予定が合えば一緒に食事をした。

話題は恋の話は控えめに、仕事だけでなく、プライベートな話題の割合がぐんと増えた。

その度に特別な後輩で居られればいいと自分を律して、そして願う。

この恋を忘れるまで、ぬるま湯に浸かっているぐらいは許して欲しいと。

しかし二年ほど経ったある日、関係は突如終わった。

伊佐美が急に会社を辞めてしまったのだ。

正確には急ではないのだが、理央にとっては青天の霹靂で、その後さらに二年が経過して再会したのが零士と千春の結婚式だった。