終わった恋の、その後で。 〜プレイボーイな曲者御曹司は私にだけ奥手らしい〜

残念ながら伊佐美に好意を自覚したと同時に、零士と同様に彼もまた千春のことが好きだったのだと気付いてしまった。

実際、はっきりと答えてもらったわけではない。

けれど彼曰く社内の人間で、仕事に情熱を持ち、社内外問わず関わる相手に寄り添う優しい心を持っているらしい。

そして誰とでも対等に渡り合う度胸があるのだとか。

該当するのは千春だけではないのだろうが、しかし伊佐美の軽口も千春の前では鳴りを潜めていたし、とある現場を目撃した。

それは千春から零士と付き合い始めたという話を聞いて暫く経った頃。

自分でも意外なほど恋の痛手には手応えがなく「あぁ、やっぱり」と受け止めて終わったことに、違和感を覚えていた時期だ。

ちょうど出張先から会社に戻って、営業部のフロアに入るよりも先に倉庫へ荷物を置きに来たところ、理央はその時たまたま立ち聞きしてしまった。

廊下の角を曲がった突き当り、ガラス張りの窓の傍で伊佐美と千春が話していたのを。

「ありがとうございます。ずっと引っかかっていたんです……」

「まぁ、そうだよな」

「すみません。言いづらいこと教えてくださって」

「いいって。でも秘密にしてくれよ。俺の言ったことは気にしなくていいから、桜井は自分の気持ちを大事にしてくれ……」

「分かりました」

まるで片想いを終わらせた後のような、そんな余韻が残る会話だった。

――なんだ、伊佐美の秘めた恋の相手は千春だったのか。

そんな結論に至った直後、胸の奥が鉛のように重たくなって手土産を下げていた指先が震えた。

きっと伊佐美は、千春の気持ちが零士に向いていることに気付いていたから、諦めて黙っていたのだろう。

――そんなことなら……同じ境遇なら、言ってくれれば良かったのに。

途端に寂しくなって、しかしそれだけではない嫌な感情が木枯らしのように胸をどついて吹き抜けていった。

そして、気付いた。

零士と千春が付き合ったことにショックを受けなかったのは、零士への気持ちが離れつつあったからなのだと。