終わった恋の、その後で。 〜プレイボーイな曲者御曹司は私にだけ奥手らしい〜

「……確信持てないと告白なんて出来ないからなぁ」

呟くように言った伊佐美に理央は歯列を覗かせ笑った。

「どの口が言ってるんですか。この前、総務の人が彼女連れの伊佐美さん見かけたって言ってましたよ」

「それ、彼女じゃないんだよなぁ~……」

「知ってますよ。伊佐美さんには遊んでくれる女性が沢山いるんですよね」

以前、理央も女性連れの伊佐美とばったり出くわしたことがあるが、翌日になるとわざわざ席まで来て『昨日のあれ、彼女じゃないから』と自分はフリーだと釘をさしてきた。

そのことを思い出しながら湯呑を手にする。

あれは多分、万が一にも誤った噂を広められないようにするためだろう。

理央が口が堅いのは知っているくせに、意外と心配性なのかもしれない。

「沢山は言い過ぎ。片手に収まるよ」

はっと息を零して笑った伊佐美に理央は心底呆れた視線を投げた。

「それもどうなんですか。その本命の人に引かれちゃいますよ」

「いやぁ、やっぱ俺も男だからね。寂しい夜には頼りたくなるってもんで……」

伊佐美はオブラートに包んでいたが昼時の蕎麦屋でする話ではない話題を爽やかに仕込んできた。

そのせいで妙な想像をしてしまい、箸を持つ伊佐美の骨ばった手に視線が止まってしまう。

「ちょっと昼間から止めてくださいよ。というかセクハラですよ、それ」

しかめっ面で顎を引けば、伊佐美は固まり理央の顔色を窺うような眼差しを向けてきた。

「待って、佐山。本気で引いてる?」

「いえ、冗談ですけど。でも私以外はセクハラですよ。というか伊佐美さん、そんなの続けてると本当に本気にされませんからね」

互いの距離感は知っているはずなのに、どこか焦った顔をしていた伊佐美が面白くて理央は軽口を返した。

すると今度は神妙な面持ちになって肩が竦められる。

「本気にされない、ねぇ……俺の場合どん詰まりになったしなぁ」

「どん詰まり……」

「そ、一緒だな」

急に調子を取り戻したかの如く、伊佐美は人の悪い笑みを浮かべた。

「やめてくださいよ。一緒にしないでくださいって!私にはまだ……」

――可能性がある?

言いかけて理央は言葉に詰まった。

今や零士と理央は幼馴染というには程遠い。むしろ誰よりも一番遠い位置に居るような気がしてならなかったのだ。

避けられて雑談すらもさせてもらえないのに、そんな状態で可能性などあるのだろうか。

極め付けには、何がきっかけか分からないが、零士が最近気に掛けるのは後輩の千春らしい。

途端に”どん詰まり”という言葉が現実味を帯びてきて、ずしりと胸に落ちた。

「ま、愚痴ぐらいなら聞くし、片想い同士たまに飲みに行こうよ」

言って伊佐美がにこりと笑う。

恋愛感情がなければ、彼のような極上の色男相手でも一喜一憂することなく平然と語り合えるのに。

学生時代、意地だけで跳ねのけて壊してしまった関係を再び取り戻すのは難しく、それから理央は零士となんの進展もないまま時が過ぎて、それに比例するように伊佐美との時間が増えていった。

そうしていつしか二人で『負け犬座談会』という自虐的な名称をつけて、互いに報われない片想いを抱く仲間として夜の街を彷徨うようになったのだ。