絶対に好きになってはいけない人

それからの日課は、毎秒が心臓発作との戦いだった。

「ねえ、葵姉ちゃん。この数学の宿題、ここ分からないんだけど……教えて?」

学校から帰ると、制服のシャツの袖をまくった美飛が、私の部屋にやってくる。
近っ! 距離感がバグっている!
推しとしての美飛なら画面越しだからいくらでも拝めたけれど、等身大の、しかもちょっと汗ばんだ中2男子が至近距離にいる破壊力は凄まじかった。

「こ、こここうやって……! ほら、公式に代入するだけよ!」
「ふーん……。姉ちゃん、教えてくれるとき、いっつも耳真っ赤だよ?」
「赤くないし!」
「そっか。……じゃあさ、もっと近くで教えて?」

スッと顔を近づけてくる美飛。

くっ、小悪魔め……! 中学生のくせにその色気はどこで習得してきたの!?

「ちょっと美飛! そこは私の陣地! 葵ちゃんばっかりずるい!」

そこに、ガチャリとドアを開けて灯が突入してくる。灯は手にお菓子を持って、あざとく美飛の腕に抱きついた。

「ねえ美飛くん、今日のおやつプリンだよ! あーんしてあげる!」
「え、僕もう子どもじゃないんだけど……まあ、灯姉ちゃんがあーんして言うなら食べるけどさ」

パクッとプリンを食べた美飛が、悪戯っぽく笑う。
――ああもう! 二人して美飛を甘やかすものだから、美飛の「お姉ちゃん転がしスキル」は日々レベルアップしていく。
私たちは「お姉ちゃんだからしっかりしなきゃ」という理性と、「推しに触れたい・愛でたい」という本能の間で、毎日ジワジワと理性を削られていった。