資料室の奥には、あの鏡があった。
そう。
ミラが夢で見た鏡だ。
金色の枠に細長い丸型……間違いない。
そこに映っていたのはーー。
「黒猫……?」
あの少女ではない……!?
すぐさま鏡が映す物体の方に目をやる。
すると、真っ黒なマントを被り、顔には黒猫のお面をつけた人物が鎮座する。
その人物は、何やら床にカードを並べていた。
誰……?
「だ、誰や!?」
ミラの心の声と同時に朝日が反応した。
驚きを隠せない朝日はその場を動きはしないものの、パクパクと口を開けたり閉めたりしている。
不良でもこの状況は怖いらしい。
表情豊かではない常田も、この度は驚いて固まっていた。
ミラももちろん驚いたが、夢で見たこの部屋には多少の安心感があった。
じっと黒猫の仮面を見る。
「……ふっ。やっときたか」
黒猫の仮面は、並べていたカードから手を離して、ミラたちの方を見る。
声を聞く限り若い男性らしい。
そんな不審者らしき人物を前に、ミラはゆっくりと質問した。
「……やっときたって、どういう意味ですか」
「そのままの意味だよ」
「そのままの意味……?」
ミラが考え込む隙もあたえず、朝日が黒猫の仮面を問いただす。
「意味わからん! あんたは一体何者なん。こんなところにいていいと思ってるんか! 不審者やろ!」
さすが不良だ。
こういう時に言い返す度胸がある。
不審者という表現にはまったくもって同意のミラだったが、黒猫の仮面にも何か訳があるらしい。
黒猫の仮面が「フフ」っと鼻で笑う。
朝日があたりにあるもので仮面男を撃退しようとする素振りを見せたので「ちょっと」とミラは朝日を落ち着かせた。
そして、そろりそろりと黒猫の仮面男に歩み寄った。
カードの前で止まり、視線を合わせられるようにしゃがみ込む。
「……黒瀬ミラといいます。あなたは?」
「わいは? わいは、黒猫」
「黒猫……?」
「ミラ……戻ってくるのを待っていたぞ」
「わい」なんて一人称を使う人物を生まれて初めて目の当たりにした。
変なやつだ。
仮面をしているので視線が合っているかはよくわからないが、黒猫の目が描かれているあたりをじっと見た。
視線を逸らすと負けな気がする。
「戻ってくる? 私がここにきたのは、初めてです」
「…………」
ミラの応答に沈黙が流れる。
朝日も常田もここはミラに任せようと思ったのか、何も言わずにミラの両隣まで移動して膝をついた。
こんな状況で、ほぼ初対面の自分に参戦してくれる二人は心強い。
さすが不良だ。(2回目)
黒猫は俯き、先ほどまで並べていた手元のカードをまとめる。
「ミラ、このカードを使え。カードは23枚。このカードは隠されたものを映し出す。ただし、それが真実とは限らない」
そういいながら、ミラに手渡した。
ミラは少し躊躇いがちにカードを受け取る。
なんだろう。
このカード。
なんだかしっくりくるけれど。
「なんやねんこれ! 黒瀬さん、画鋲とか仕掛けられてない?」
「トランプより少し大きいな」
さすがに画鋲はついてないが。
朝日も常田もミラの手元のカードをまじまじと見る。
ミラも23枚のカードを扇のように開いてみせた。
「隠されたものを映すって、どういうことですか」
黒猫の仮面男に再び視線を向けながらミラが問う。
すると、もうそこには誰もいなかったーー。



