占い師ミラと予言カード


 放課後。
 青空をトンビが伸び伸びと飛ぶ。
 窓から広大な敷地に目を落とすと、ここに自分が数年間通うのかと意識が遠のいた。
 狭くて暗いところの方が似合う自分にとは真逆の場所だとーー。
 今日は始業式だから授業が早く終わって、ミラは図書室に向かった。
 今朝は道に迷って大変だったけれど、クラスメイトの朝日のおかげで遅刻をせずに済んだ。助かった。
 そういえば、朝日はホームルームで自己紹介した後、あっという間にクラスの中心人物になっていた。
 ああいう人は、少々チャラくてヤンチャだが、クラスに一人は必要だ。

「あ! 黒瀬さんや!」

 窓の外を眺めながら廊下を歩いていると、前方から声がする。
 頭の中で噂すれば、朝日ヨウだ。
 その隣には……クラスメイトの……たしか、常田カイだったか?

「…………」

 ミラは、足を止めて、無言でお辞儀した。
 朝日の隣の常田も遅れて頭を下げる。

「今朝はありがとうな! 黒瀬さんのおかげで遅刻せずに済んだわ」

 朝日はそういって頭をぐしゃぐしゃっと掻いた。
 それは「こちらのセリフだ」とミラは思ったが、うまい返答が見つからない。

「ああ、えっと……」

 そんなミラの気持ちを察したのか、朝日は言葉を続けた。

「あ、こいつ、俺の親友! 常田カイ」
「……お前、親友とか、そういう恥ずかしいことよく言えんな。あ、どうも。常田です」

 朝日が常田の肩に腕を回すと、常田は気だるそうに言った。
 常田は、黒髪のサラサラストレート。
 ミラの黒髪が紫よりの黒なら、常田の黒は赤よりの黒だ。
 少し吊り目で、キリッとした顔のつくりにぴったりだ。
 それに、寡黙なキャラクターが一目でわかる表情をしている。

「黒瀬です」

 ミラも常田に応えるかたちで名前を言う。
 朝日は関西弁だが、常田は標準語のようだ。

「お前、今朝も遅れてきて、なにやってんだよ。入学式も遅刻して出席してなかったしな」
「あー、しゃーないねん。中庭で黒猫がおなか空かせててん。何か食べさせてあげな、可哀想やろ」
「オヤジさんに知られたら怒られるだろ」
「えー、大丈夫やろ」
「髪で隠れてるピアスも時間の問題だぞ」
「へそピも開けてもうてん。やばい?」
「それはお前、もうおしまいだろ」
「やっぱりか。でもカイも春休みに金髪に染めて怒られたんやろ? 黒染めしても、俺にはバレバレや。赤っぽくなってんで」

 なんだか盛り上がっている二人だが、ピアスに金髪とは、この二人は不良なのだろうか
 でも、ミラと同じ特待生だし……。
 ミラは人との交流がほとんどなかったのに、不良と会話するなんてハードルが高すぎる。
 早くこの場を立ち去らねばと思った矢先、朝日がミラに質問を投げかける。

「あ、黒瀬さん、どこか行くん?」
「ああ、図書館に」
「図書館か! 本好きなんやね。今日一日、本読んでたもんなあ」
「まあ……」
「どんなジャンルが好きなん? 俺は『かいけつゾロイ』が好きやで」
「おい、朝日、それは小学生が読むもんだろ」
「え? そうなん」

 ミラは、朝日がクラスで浮いている自分の姿まで気にしてくれていたのかと申し訳ない気持ちになった。
 不良にまで気にされる地味子とは一体どんな価値があるのか……。
 今日は始業式でクラスメイトと顔を合わせるのは皆初めてだった。
 誰もが緊張していたが、朝日が自己紹介の時間を盛り上げてくれたおかげでクラスの雰囲気は朝からとても良かった。
 特待生なのに、耳にピアスを開けているらしい不良だが、クラスのみんながその性格の良さと明るさに助けられた一日だった。
 たしか、休み時間に朝日派か常田派かと女子たちが騒いでいた気がする。
 女子はヤンチャな男子に弱いらしい。
 要は、クラスのイケメントップ2ってとこだ。
 どちらが一位か知らんが。

「じゃあ、私はこれで」

 ミラは再度お辞儀をして図書館を目指すため、廊下を曲がろうとした。
 すると、自然と突き当たりの資料室に目がいく。
 なんだか見覚えがあるーー。
 この校舎に足を踏み入れたのは初めてなのに。

「ちょっと待って、黒瀬さん! 俺らも図書館、一緒に行っていい?」
「え?」

 振り向くとすぐそばにニカッと笑った朝日がいた。
 その後ろには、常田もいる。
 すると、常田がミラに歩み寄ってきて、資料室に視線を向けた。

「気になるか?」

 常田もミラ同様に、資料室に注目したらしい。
 その視線は真剣そのものだった。

「見たことがある気がして」
「行ってみよう」
「…………?」
「おい、カイ! どうしたん」

 表情一つ変えない常田は、ずんずん資料室に進み、ミラと朝日はその後を追う。
 扉に手をかけると、常田はゆっくりとドアを開けた。
 鍵はかかっていないらしい。
 恐る恐る三人は資料室に入室する。
 朝日はこの状況に困惑し、常田の耳元でささやく。

「カイ、突然なんやねん?」
「…………」

 常田が無反応を突き通すので、朝日の視線はミラに向けられた。
 自分が気になって足を止めたのだから、二人を先導しなければ。
 それに不良だし、後から怒られても困る……。

「……えっと。ついてきてくれる?」

 ミラがそう言うと、常田はこくんと首を縦に振る。
 朝日も常田の様子を見て同意した。
 初めて足を踏み入れた校舎の中に、なぜ見覚えのある場所があるのだろう。
 この部屋の奥に……何かある気がする。
 ミラは二人に目配せをして、部屋の奥へ奥へと進んだ。