好きな男の子が幽霊になって会いに来た話。

――平気じゃん、私。

心の中で、そう呟いた。

思っていたより、ずっと冷静で。

涙も出ないし、足もすくまない。

まるで、誰か別の人の葬式に来ているみたいだ。

そのまま、パイプ椅子に腰を下ろして、

他の人たちの焼香が終わるのを待つ。

背筋を伸ばして、手を膝に置いて。

ちゃんと座っているはずなのに。

目の前の現実を映しているはずのこの瞳は、

どこか、重たい暗さを帯びていて。

光を、まったく映していなかった。

泣いている人たちの姿も。

すすり泣く声も。

誰かが名前を呼ぶ声も。

全部、遠い。

音だけが、膜越しに聞こえてくるみたいで、

私はその場にいるのに、ここにいないみたいだった。

……おかしい。

こんなに、好きだったのに。

こんなに、大切だったのに。

どうして、何も感じないんだろう。

胸の奥にあるはずの感情が全部、底に沈んでしまったみたいで。

掴もうとすると、指の隙間から、すり抜けていく。

その代わりに残っているのは、ずっと離れない、重たいモヤだけ。

それが、ゆっくりと、

確実に、私の内側を侵食していくのが分かった。